2019年11月13日水曜日

The Bioeconomy Approach: Constraints and Opportunities for Sustainable Development

第4回研究会:2019年10月31日
講演:Professor Udaya Sekhar Nagothu
Research Professor and Director (Centre for International Development)
Norwegian Institute of Bioeconomy Research

現在著書The Bioeconomy Approach: Constraints and Opportunities for Sustainable Developmentの出版準備中.最近の動きのレビューから要点を紹介していただきました.


  • 1850年以降産業革命が波及して拡大した化石燃料経済は今までにない人口増加と都市化をもたらした.貧困が世界人口の40%から10%に削減された一方,気候変動,生物多様性の喪失,砂漠化その他の環境問題が頻出することなった.
  • 2030年までの10年で世界的に中流層は20億人増加すると見込まれている.持続可能な開発目標(SDGs)が2030年に向けて設定されたが,バイオエコノミーなど新しい経済パラダイムを導入しないと達成は難しい.
  • バイオエコノミーの定義:EU(2012)によれば,再生可能な生物資源を製造すると同時に廃棄物を付加価値を持つ製品,例えば食品,資料,繊維などの生物的製品やエネルギーに転換することを指す.
  • バイオエコノミーは増加する世界人口の食料,水,エネルギー,素材に対する需要に応えることができるのか:透明性を確保しつつ,生態系,社会的,経済的持続可能性を追求するなら積極的な方法論となるだろう.一方で企業や産業が自らの目的の達成のためにバイオマス資源の利用を増加させるだけという批判的な見方もある.
  • Circular Economy:近年EUで主流になりつつあり,Circular bioeconomyという言葉も見られるようになった.資源利用効率を高め,廃棄物を減じ,栄養の循環を促し,よりよい生活のための基礎サービスと適正な仕事へのアクセスを増やすもの. (Kalmykova et al., 2018; Su, et al., 2013).   一方で少々概念的であるという批判もある.
  • バイオエコノミーの主な駆動力:人口増加と需要増加,気候変動,食料安全保障である.途上国では食料需要と(産業の)経済的な需要が主要な一方,先進国では温暖化ガスの削減,負の環境影響の低減が課題である.
  • バイオエコノミーの成功要件:生物資源が十分にあること,適正な技術があること,投資が継続すること,熟練技術者が確保できること,利害関係者の協調があること,法規制が整備されること,貿易が容易なこと,政策的な下支えがあること.
  • バイオエコノミーのもたらす利益:環境負荷の削減,生態系サービスの維持,炭素排出の削減,雇用の創出,農村振興(女性,若者),新製品,新市場,生物資源の効率的使用.
  • 制限とリスク:バイオエコノミーは持続可能性が自明でない.EUにおいても環境の持続可能性は挑戦としてとらえられ,目標にはなりえない.EU外ではバイオエコノミーの経済的,商業的な成功が優先され,環境持続可能性が優先的ではない.経済,社会,環境のバランスのとれた追求の欠如.負の影響の越境問題,SDGs自体にも目標間に競合がある.
  • EUでのバイオエコノミーの進展:2009年にOECDがバイオエコノミー戦略を策定.2010年にドイツが初めて国家研究戦略を発表.2012年にEUとして戦略策定.H2020研究プログラムでバイオエコノミーが課題となる.2015年ECはCircular Bioeconomy計画を発表.
  • EUでの現状:バイオエコノミーの経済規模は年間2兆ユーロ規模.2千2百万人の雇用.EUの雇用全体の9%.今後も伸びが期待されるが,熟練技術者の養成が課題.Knowledge based bioeconomy (KBBE)により研究の優先課題が形成されている.オランダ,フィンランドなどの国が独自のバイオエコノミー戦略を策定した.
  • ノルウェーのバイオエコノミー戦略:環境,社会,経済の全てに配慮.廃棄物をゼロにすることが目標.成果は5つの軸で評価される.自然資源の持続可能な利用,技術的な革新,環境への貢献,社会への貢献,ビジネスモデルとしての革新性.
  • アジアでの展開:バイオエコノミーは新課題.マレーシアとタイが国家戦略を策定.技術・研究分野の省に管轄されていることが多く,産業間の連携がないのが課題.熟練技術者の不足が制限要因.
  • 日本:バイオマス利用促進基本法(2009),2012年バイオマス産業化戦略,2019バイオ戦略策定.
  • アフリカ:南アフリカは2013年にバイオエコノミーの開発計画を策定.ウガンダ,ケニア,タンザニア,モザンビーク,マリ,セネガル,ナイジェリアが関連戦略を策定.経済がバイオマス中心であるが,バイオエコノミーに関する率先があまりない.
  • バイオエコノミーの持続可能性指標:ローカル・エコロジカル・フットプリント,生態系サービス維持,SDGs,Rural Development Indicators,全体経済への貢献と雇用創出,HDI
  • 今後の発展の必要条件:技術革新と研究が重要.インフラ整備と投資,機能的な市場の創出.バイオエコノミーの目標を持続可能性とすること.健全な生態系サービスの維持こそがバイオエコノミーの基盤となる.


2019年5月21日火曜日

藤木庄五郎さん 生物多様性ビジネスの最前線 2019年5月16日





藤木庄五郎さん 
1988年生まれ.20123月京都大学農学部卒業.
20173月京都大学大学院博士号(農学)取得.
20175()バイオーム設立,代表取締役.
https://biome.co.jp/

藤木さんは京都大学農学研究科の博士課程において,衛星画像解析により生物多様性を定量評価する研究に取り組んでいた.そのため2年にわたりインドネシア・ボルネオ島の400カ所を超える地点で自ら植生調査を行った.調査中,パームヤシのプランテーションのために360度見渡す限り熱帯雨林が皆伐された風景に圧倒される.経済の力の恐ろしさと人類の生存の危機を直感した.研究成果は学会でも高い評価を受けたが,博士取得後研究者ではなく起業の道を進んだ.生物多様性を守るには経済を動かす仕組みが必要と考えたからだ.
人類の活動によって約100万種の動植物が絶滅危機にさらされていると警告する報告書を「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)は先日発表した.生物多様性保全は国連の環境部会にもなっているが(UNCBD),排出権取引などの気候変動対策の進歩に対し,生物多様性保全には有効な制度が構築できていない.その一因として生物多様性が定量評価できていないこと,認証できていないことを藤木さんは問題視している.大規模開発の際には環境アセスメントが行われる.その際に希少な生物が見つかると調整がなされるが,そもそも計画が立ってから環境アセスメントが行われるという順序にも問題があると藤木さんは考える.日本,世界津々浦々の生物多様性があらかじめ定量的に把握できていたら開発行為そのものが変わる可能性を持つ.そのために生物多様性のビッグデータを構築することをバイオーム社は業務とする.
2019年にバイオーム社が公開したスマホアプリ,バイオームは生き物や植物を写真に撮り,その場所を登録することでポイントを獲得するリアルな生き物版のポケモンである.分からない生き物は写真を撮るとアプリが自動判別してくれる.一方でバイオーム社側のデータベースには各地の生物の情報が蓄積され,時間を経るとともにその情報は豊かになっていく.情報の収集元はアプリに限らず既存の生物調査結果やインターネット空間の全域に及ぶ.
バイオーム社は20175月に志を共にした京大農学部・農学研究科の仲間と起業した.技術開発はすべて自分たちで行ってきた.会社の理念に共鳴して社員が増えており,2018年には経済産業省よりJ-startup企業に認定された.
自動画像認識が写真だけでなく動画に進化すれば生物の調査の定量性が大きく変わっていく.定点カメラ,ドローン,水中ドローンを活用して生物を広域で調査できるようになる.ビッグデータだけでなく,生物調査のソリューションを提供していくことをバイオーム社は目標としている.

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長野の感想
とにかく藤木さんの目標の高さに驚愕し,感銘を受けました.近未来の生物資源管理の姿を垣間見させてもらいました.バイオーム社の活動を通じて生き物好きの人々が増えてくれればよいなと切に思います.

2019年1月16日水曜日

井筒耕平さん:木質バイオマスをこの社会でどう生かしていくか


第2回バイオエコノミー研究会議事録
2018年11月6日

木質バイオマスをこの社会でどう生かしていくか
井筒耕平さん 株式会社Sonraku代表取締役
井筒さんは1975年生まれ.株式会社sonraku代表取締役.名古屋大学で環境学博士号を取得後,再生可能エネルギー導入のコンサルタントとして働く.岡山県美作市での地域おこし協力隊を経て村楽エナジー株式会社を2012年に設立.樹木などの有機物を原料にしたバイオマスによるエネルギーの供給やコンサルティング,ゲストハウスの経営など多方面で活動されている.


お話の概要

起業の動機
コンサルタント業を辞めて地域おこし協力隊となったのは,現場のしんどさがわかる実践者となりたかったから.現在は国がエネルギー基本計画を作成しているが,もっと地域で考える必要があると思っている.現在農山村への主な資金流れは交付金や年金だが,これらがエネルギーが購入に費やされており,つまり農山村は消費者化している.逆にものやサービスを都市に供給するビジネスこそが必要で,エネルギーはその手段の1つと考えられる.

FITの問題点
バイオマスは主に発電と業務用熱利用がされている.近年大規模バイオマス発電が乱立したのは固定価格買取制度(FIT)が理由.沿岸に多く立地しているのは輸入バイオマスを利用するためである.発電規模5MWだと5万トンの木材が必要で輸入に頼らざるを得ない.FITは本来地域で未利用の木材の利用促進を趣旨としたはずなのに輸入バイオマスによる発電が進んでいるのは政策的な問題である.間伐材(未利用木材)による発電の買取は40円/kWh.これに対し一般木材による発電の買取価格は24円/kWhである.問題点は以下の通り.
1.製材端材が一般木材枠になので売電単価が安く利用が進まず.単価の高い未利用木材枠を狙って山から切り出した丸太がばかりを破砕してチップやペレットにされており、本来利用すべき製材端材の利用が進みづらい.
2.海外から輸入された木材がやはり一般木材として扱われること(パーム椰子がらなど高カロリーで使いやすい).
3.熱供給に対するインセンティブがない.木材は燃やしてもエネルギーへ転換できるのは2割.残り8割の熱を利用促進する制度的枠組みがない.ドイツでは2012年から熱電供給でないとFIT対象外である.

バイオマス利用の進むべき方向
住宅へのバイオマス熱供給を目指すべき.ヨーロッパでは住宅へ熱供給がバイオマス利用のの38%を占める.一方発電は6%を占めるだけ.個人的には農山村に集合住宅を増やしそこでのバイオマス熱供給を目指すべきだと思う(個人宅より高効率).再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力とバイオマスには大きな差がある.太陽光パネルは大量生産が可能で限界費用がゼロに近い.一方バイオマスは大量生産できず,発電方法も地域毎に個別で前近代的.ヨーロッパでは燃料の大量生産まではできている(チップ化,乾燥).

西粟倉村
西粟倉村は面積が57km2,林野率95%,人工林率80%(スキ,ヒノキ)で人口1,500人の小さな自治体.自治体職員が30名程度.NPO,ベンチャー的なスピード感がある.自治体職員として地元住民と移住者を公平に扱ってくれる.2006年から2018年までの12年で33社が起業.社長のうち2割ぐらいが地元の人.起業者は事業として結果を出すことが最優先課題であり,地域への貢献(地域資源の有効活用,合意形成への参加,地域,定住)を求められわけではない.

株式会社sonraku
正社員7名,従業員21名.バイオマス事業と宿泊業(西粟倉と豊島)を営んでいる.どちらも地域のニーズに応じて始めた.

Sonrakuのバイオマス事業.
西粟倉村では村役場が委託方式により林業経営を行っている.施業でA,B,C材が出てくる中でC材の利用法としてバイオマス事業が始まった。4mのC材から1mの薪を年間1000トン作っている。熱供給が事業内容でボイラーなど施設への出資は自社では行っていない.現在はバイオマスの熱利用のみを業務としている.発熱量を計器で計り,課金している.材料の丸太は,そのまま1年乾燥させて含水率40%にする.薪にしてからラックで乾燥させ最終的に含水率が30%程度となる.温泉での熱供給は灯油と薪を併用しているが,薪代替率は80%を達成している.冬積雪により薪の乾燥が十分でないことで出力が落ちる.西粟倉では地域熱供給システムの熱供給も始めた.

バイオマス事業の課題
バイオマス発電プラントが大量のC材を買いつけるので,仕入れ値が高くなってしまう.一方熱供給は灯油と競合するので売価は発電の1/4にしかならない.Sonrakuの経営においてバイオマス事業が中心にもかかわらず収益への寄与が小さい.積雪と低温で乾燥が進まない冬季の運用が厳しい.

これからやりたいこと
西粟倉における住宅の断熱高気密化と再エネ化,集合住宅におけるバイオマス熱利用,木質バイオマスガス化発電,新電力,ローカルベンチャー育成に取り組んでいきたい.


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長野の感想
Sonrakuの事業の多様さは井筒さんの実践者としての姿勢を体現している.熱供給と利用者双方の観点を持つ会社だからこその独自の視点を持っておられた.お話からバイオマスの利用は地域によって個別のデザインが必要であり,人手を要することがよく分かった.地域の雇用創出とういう観点では,非常に効果が高いともいえる.エネルギーセクターは安定供給が求められる上に化石燃料との価格競争が激しいため日々のご苦労は大変なことと思った.地産地消が我々が素直に思うような合理性を持つためには,化石燃料の価格が現在まだ安すぎるともいえる.一方FITによる大型バイオマス発電はバイオマスの潜在力を十分生かしているとはいえず,かつ補助金により低級間伐材の市場を歪めている点は問題である.