2010年3月11日木曜日

病気にならない生き方:新谷弘美

病気にならない生き方:新谷弘美

最初に読んだのはこの本が出た2005年であった.再び読み返してみてもいい本である.ちなみに2冊目はあまり印象に残らない本だった.
新谷氏は内視鏡医である.30万件を超える診断から,食習慣,生活と胃腸相の関係の経験則を導き出し,独自の健康論を唱えている.経験則なので説得力がある.いろいろな説を引用しているので参考文献があるともっと良かった.1938年に出た「健康の輪」から60年以上を経て健康食の効果が胃腸を直接見ることができるようになった医師によって裏づけされた感がある.健康になりたければ,健康な人のまねをするのがよいことを教えてくれる.免疫革命と合わせて家庭の常備本にすれば日本の医療費は大いに削減されることになるだろう.


茶は体によいか?
お茶を沢山飲む人の胃腸相は悪い.お茶に含まれるタンニン酸にはタンパク質を凝固させる働きがる.粘膜が薄くなる委縮性変化が起きていることが多い.

マクガバン・レポート(1977年)
 膨れ上がった医療費問題から「国民栄養問題アメリカ上院特別委員会」が設立された.委員会のメンバーは世界中から食と健康に関する資料を集め,当時最高レベルの医学・栄養学の専門家とともに「病気が増えている原因」を研究・調査.
 高タンパク,高脂肪の食生活はよくないと結論.理想的な食事として定義されたのは,元禄時代以前の日本の食事.精白しない穀物を主食に,おかずは季節の野菜や海藻類,動物性たんぱく質は魚介類を少々.動物食は成長を早めるのに有効であるが,同時に老化を早める食事でもある.

肉食が腸相を悪くする理由
 食物繊維がなく,脂肪やコレステロールを大量に含んでいること.肉食を続けると,腸壁がどんどん厚く固くなる.これは植物繊維がないために,便の量が極端に少なくなり,その少ない便を排出するために腸が必要以上に蠕動しなければならないから.便を押し出すために腸内の圧力が高くなると,粘膜が押し出され,「憩室」と呼ばれるポケット状のくぼみができる.ここに停滞便がたまっていく.停滞便は毒素を出し,その部分の細胞に遺伝子変化を起こさせ,ポリープを作りだす.腸相の悪い人の多くが,子宮筋腫,高血圧,動脈硬化,心臓病,肥満,乳がん,前立腺ガン,糖尿病などのいわゆる「生活習慣病」を抱えている.

日本人の胃がんの発生率が高い理由
日本人の胃がん発生率はアメリカ人より10倍も高い.脂肪を摂る量が異なることも理由だが,消化酵素の量に大きな違いがあるのではないか.日本人は胃が痛くなるとすぐに胃酸を抑える胃薬を飲むが,これがよくない.胃は異物と接する前線なので強い酸性環境が必要.胃酸が抑えられると消化酵素を活性化させるペプシンや塩酸が不足し,消化不良を起こす.また十分な胃酸がないと,鉄やカルシウム,マグネシウムなどのミネラルの吸収が阻害される.胃の摘出手術を起こした人が貧血症状を呈するのはこれが理由.さらに胃酸を抑えると,腸内細菌のバランスが崩れ,免疫力が低下.胃酸が分泌が不十分だと消化酵素が活性化されず,食べ物は未消化のまま腸へ運ばれる.当然のごとく腐敗,異常発酵が起きる.

薬はすべて毒
薬は基本的にすべて「毒」.効果が早く表れる薬ほど毒性も高い.

健康のカギは酵素
 人間の体内で働いている酵素は5千種類以上あるといわれるが,酵素は体内で作られるものと外部から食物として取り込むものの2種類がある.体内で作られる酵素も,腸内細菌が作りだしていると言われるものが約3千種類ある.
 良い胃腸相をしている人たちに共通していたのは,酵素を含む新鮮な食物を多くとっていたこと.一方悪い胃腸相をしている人たちに共通していたのは,酵素を消費する生活習慣(たばこ,酒,大食,添加物の多い食物の摂取,ストレスの多い生活,医薬品の多様など)
 アメリカの酵素研究の第一人者であるエドワード・ハウエル博士は,生物がその一生の間に生産できる酵素の総量は決まっているという説を提唱している.現在酵素を作り出すことができるのは生命体だけである.発酵食品のように酵素を多く含む食物を人工的につくることはできるが,酵素そのものを人工的に合成し,作りだすことはできない.
新谷氏は特定の場所で特定の酵素が大量に消費されると,体の他の部分で必要な酵素が欠乏するという事実を確認した.どこかで大量の酵素を消費すると,体の恒常性を維持し,細胞の修復や神経系,ホルモン系,免疫系を正常に保つ酵素がその分不足するとう仮説.

抗がん剤の恐ろしさ
 抗がん剤はもっとも体にとって毒.抗がん剤は毒性の強い活性酸素を沢山作りだすことによってガン細胞を殺している.活性酸素が大量発生すると,人間の体は恒常性を維持するために,活性酸素を解毒するための酵素を生成する.

牛乳を飲むと骨が弱くなる?
 牛乳に含まれるカゼインは胃に入るとすぐに固まってしまい,消化が非常に悪い.ホモゲナイズ(脂肪の均質化)のために攪拌をすることにより乳脂肪分は過酸化脂質に変化する.これは活性酸素と同じように体に悪い.高温殺菌をすると牛乳の酵素は48-115度の間で分解する.市販の牛乳を母乳の代わりに子牛に与えると4ー5日で死んでしまう.
 牛乳を飲むと血中カルシウム濃度が急激に上昇する.体は血中のカルシウム濃度を通常に戻そうと,血中のカルシウムを腎臓から排出する.牛乳の摂取でカルシウムが過剰に排泄されてしまう皮肉.4大酪農国であるアメリカ,デンマーク,スウェーデン,フィンランドの各国で骨粗鬆症が多い.小魚などを通してカルシウム摂取をすると血中濃度の急上昇は起きない.

ヨーグルトを常食している人の腸相も決してよくない.
乳糖を消化する酵素「ラクターゼ」は年齢を経るとともに減少.乳糖の未消化が軽い下痢を起こさせ,便通が良くなったとの錯覚を生むのではないか?

You are what you eat

活性酸素を少なくする生活
活性酸素の中和のための酵素は「SuperOxide Dismutase」.しかしSODは40歳を過ぎた頃から生成量が急激に減少する.

酸化の進みやすい油
 食用油は昔圧搾法で抽出されていた.これは熱を加えない方法.だが熱を加えないだけに変質もしやすい.

酸化が進まないがもっと体に悪い油.
 現在では「溶剤抽出法」が用いられている.原料にヘキサンという溶剤を混合して加熱し,さらに溶剤のみを蒸発させるため,高温,高圧をかける.この方法で抽出された油は「トランス脂肪酸」という体に非常に悪い成分になる.
 トランス脂肪酸は自然界には存在しない油で,悪玉コレステロールを増やし,善玉コレステロールを減らすほか,ガン,高血圧,心臓疾患などの原因となる.
 マーガリンは常温で液体であるはず不飽和脂肪酸に水素を添加し,飽和脂肪酸に人工的に変えてある.マーガリンの原料がそもそもトランス脂肪酸を多量に含んでいるので体には良くない.マーガリンと同様に「ショートニング」もトランス脂肪酸を沢山含む.

必須脂肪酸の上手な摂取法
 不飽和脂肪酸の中に人間の体で合成できないものがある.リノール酸,リノレン酸,アラキドン酸などである.これらの不飽和脂肪酸はとても酸化しやすい.圧搾採取したオリーブオイルでも酸化は避けられない.
 これらの不飽和脂肪酸は魚に含まれるものが最も安定している.特にイワシやサバなどの青い魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタン酸)といった良質な不飽和脂肪酸が多く含まれている.
 油はどのようなものであっても空気に触れればすぐに酸化を始める.だからできるだけ調理に油は使わない方がよい.
 人間に必要な油は人工的に摂取しなくても,脂肪分を含有した食品を摂ることで自然に摂取できる.穀物やナッツ,豆類,植物の種など油の原料となるものをそのまま食べること.

人間より体温の高い動物の肉は血を汚す
 動物性タンパク質は大量に摂りすぎると,胃腸で完全に分解がしきれず,腸内で腐敗して大量の毒素を生成する.その毒素とは,硫化水素,インドール,メタンガス,アンモニア,ヒスタミン,ニトロソアミンなど.これに加えてフリーラジカルも生成される.
 タンパク質は1日60gしか必要ない.現在の日本男子の1日のタンパク質摂取量は84gでアメリカ人に匹敵する.
 無駄なたんぱく質は消化酵素によってアミノ酸に分解され,アミノ酸は肝臓でされに分解されて血液に流れ込む.すると血液が酸性に傾くので,それを中和するために骨や歯から大量のカルシウムが引き出される.
 魚を過剰摂取しても腸に憩室ができるまで悪化はしない.その理由として脂肪の性質が異なることが考えられる.人間より体温の高い動物の油は体内に摂りこまれると凝固する.一方で体温の低い動物の脂肪は液化する.その違いかもしれない.

赤身の魚は酸化しやすい
 赤身の魚は鉄分を多く含むため,白身の魚より酸化しやすい.赤身の魚はミオグロビンを多く含む.ミオグロビンは酸素を蓄えることのできる球状タンパク質.無酸素運動をするために大事なものだが,酸素を蓄えることができるだけに酸化しやすい.

植物性85%動物性15%が理想の食事
 植物食でもタンパク質は十分摂れる.人間の腸ではタンパク質が消化酵素によりアミノ酸に分解され,腸壁で吸収されてからタンパク質が再合成される.人のタンパク質を構成するアミノ酸は約20種類あり,その中には人間の体内で合成できないものが8種類ある.リジン,メチオニン,トリプトファン,バリン,スレオニン,ロイシン,イソロイシン,フェニルアラニンでこれらを必須アミノ酸という.これら必須アミノ酸をすべて含んでいるのが動物性タンパク質.しかし植物性タンパク質にも多くの必須アミノ酸は含まれている.穀類,豆類,野菜類,キノコ類,果物,海藻にもアミノ酸は多く含まれている.

白米
 玄米は発芽する能力を持つ.そのための胚芽を取り除いた白米は多くの重要な栄養素を失っている.
 種の中には勝手に発芽しないよう抑制する酵素「トリプシン・インヒビター」が含まれているものがある.穀物や豆や芋を生で食べると害になるのは,この物質を中和するのに大量の酵素が必要となるから.トリプシン・インヒビターは熱を加えると分解する.
 
人間の歯はなぜ32本なのか
 人間の場合,肉を食べるための犬歯が4なのに対し,植物を食べる歯は門歯の8と臼歯の20を足した28になる.これは植物性85%動物性15%が理想の食事であることを意味していると考えられる.85%の植物食のうち50%は穀物,野菜や果物を35-40%とするとよい.また50%を占める穀物は生成していないものを選ぶ.

良く噛むことと小食は体によい
 人間の体は噛めば噛むほど唾液の分泌が活発になる.小食を心がけていると食べたものが綺麗に消化,吸収されるので,腸内での腐敗が防げる.

肉食動物はなぜ草食動物を食べるのか
 地球上にはさまざまな食性をもった動物がいるが,それらに共通するのは酵素を多く含んだ状態の食物を好むこと.肉食動物が肉しか食べないのは植物を分解する酵素を自らもっていないから.草食動物を狩ると肉食動物はまず内臓を先に食べる.これにより草食動物が胃腸で消化した植物と消化しつつある植物を食べている.

食事の1時間前に水を飲む
 食事の直前や最中に水を飲むと胃酸が薄まり,消化によくない.就寝時には胃を空にしたほうがよいのであまり好ましくない.よって以下のような飲み方がよい.
・起床時 500-750cc
・昼食の1時間前 500cc
・夕食の1時間前 500cc
 水は冷えたものを飲むと内臓を冷やすので酵素にとってもよくない.室温のもの,もしくは体温にちかいもの.

水はよきパートナー
 水は血管の中だけでなく,リンパ管の中でも活躍し,私たちの健康を守っている.人間の体のリンパ管システムは,血管を川に例えるなら,下水管のようなもの.皮下組織にある過剰水分やたんぱく質,老廃物などを浄化,濾過,濃縮したあと,血流に運び込む役割を果たす.リンパ管の中にはガンマグロブリンのような抗体やりぞチームなどの抗菌作用を持つ酵素も含まれえいる.これらが健全に機能するためによい水が絶対に必要.
 酸化還元電位では,酸化力が低く還元力の強い水がよい.酸化力の高い水は微生物などを死滅させるが,同時に細胞も傷つける.水道水には酸化力の高いものがある.
 水に含まれるミネラルの中で特に大切なのは,カルシウムとマグネシウム.そのバランスが大切である.カルシウムが過剰だと細胞内に蓄積することでカルシウムは高血圧や動脈硬化の原因となるが,マグネシウムが適度に含まれていると,これを防ぐことができる.

人間が生きていけるのは微生物のおかげ
 人間の腸内には300種類100兆個の腸内細菌が住みついている.かれらは私たちの生命力の源である酵素を作ってくれている.
 腸内にはいわゆる善玉菌と悪玉菌がいる.善玉菌はひとことで言えば抗酸化酵素を持っている.彼らは腸内でフリーラジカルが発生すると,自らが死んで体内の抗酸化酵素を出し,フリーラジカルを中和する.絨毛の間にいる乳酸菌は免疫システムが病原と戦う時に大量に発生させるフリーラジカルの除去に活躍する.
 悪玉菌は未消化物に対して異常発酵を促すものであるが,これは有害ガスの発生により腸を刺激して排泄を促していると考えることもでき,一概に悪とは決めつけられない.
 抗酸化作用をもたらす善玉菌を増やすことが酵素の生産につながるのであれば,酵素が沢山含まれる食物を摂ることが,善玉菌の繁殖を助けることとなる.

2010年3月9日火曜日

健康の輪:G.T. レンチ

健康の輪 (1938年)
病気知らずのフンザの食と農
G.T.レンチ

 「ハワードの有機農業」と時代を同じくして出版された書物である.両者に共通するのは,植民地支配において,アジアの農業や食の合理性を目のあたりにし,その知見を逆輸入しようとする姿勢である.病気や健康の解釈については古い時代なりの解釈があり,文章も描写と教条が混ぜこぜで書かれているため,分かりにくい部分があるが,現在唱えられている健康論の原点がすでにここにあったことにはびっくりする.
 小麦粉がなぜ全粒から精白になったのかは知らなかったのだが,それは,世界貿易において長期輸送や保存の際の酸化を防ぐためであることが興味深かった.小麦胚芽の油分は酸化しやすいためである.フスマは小麦を覆う皮であるが,これも精白では取り除かれる.アメリカからの穀物輸入が西欧に大きな影響を及ぼしている時代の書物であるがゆえ,その辺りの記述がしっかりしていたのが面白かった.以下要約


フンザ(Hunza,パキスタン)は,コーカサス(グルジア),ビルカバンバ(エクアドル)とともに世界三大長寿地域と評される秘境である.フンザが位置する渓谷はインドからミンタカ峠を超えて新疆ウイグルに至る街道の途上にあり,アフガニスタンの東端からわずか16キロの距離にある.高度は3000-4000mである.

フンザの人々の健康さと屈強さには数々の定評があった.怖いもの知らずで気立てがよく,明るいうえ,素晴らしい敏捷性と忍耐力を有している,徒歩で448キロの山道を7日で歩く,職業は主に農業だが職人としてもすぐれている,登山のポーターとして極めて優秀,踊り手としての彼らも北西辺境のカタックのダンスが比較にならないほど洗練されている,などなどである.

インド軍の連隊付き軍医であったロバート・マッカリソン卿は(1918年に研究に戻り,1921年に欠乏症研究を出版)フンザの人々について以下のように語っている.「これらの人々は,身体の完全さでは他のどのインド人よりも優れていて,長生きであり,老いも若きも生命力にあふれ,非常に耐久力があり,みな驚くほど病気知らずである」


フンザの食事と暮らしには以下のような特徴がある.
 厳冬期以外はほとんど屋外で野良仕事に男女が従事する.
 イスラム教だが女性は家に閉じ込められていないし,ワインを自粛してもいない.
 穀物は,小麦,大麦,燕麦,小粒の穀類.全粒のチャパティにして食べる.
 葉物野菜,根菜,芋類,ひよこ豆ほかマメ科植物,新鮮な牛乳とバターミルク,ラッシ,溶かし たバターやチーズ,主に杏と桑を主体とした果物,稀に肉,ブドウで作ったワインなど.
 茶,米,砂糖,卵を食べない.
 小麦は自作の他,交換で入手.豆を一緒に粉に挽いたりする.
 フンザでは牛乳から脂肪を分離し,沸騰させてギーという溶かしバターを作る.
 残ったラッシ(バターミルク)は発酵させ,酸っぱくして保存.
 野菜は特に燃料が乏しいという理由で生で食べられる場合は生で食べている.
 若いトウモロコシ,若葉,ニンジン,カブが好物.
 豆類は発芽させて食べたり,双葉を食べたりする.
 野菜を煮る時にも,水はほとんどいれず,蒸し煮に近い.
 野菜を煮た汁は,野菜と一緒に飲むか,後で飲む.
 野菜の皮も食べられるものは一緒に食べる.
 肉は10日に一度ぐらいしか食べない.餌の少ない冬に家畜の屠殺が多くなる. 
 果物を食べる量が多い.野菜より多いので主食ともいえる.夏は新鮮なもの,
 冬は乾燥したものを摂取する.
 果物は中の種も割って仁も食べる.
 朝は野良に行く前何も食べない.
 2-3時間働いた後にパン,豆,野菜を牛乳と一緒に摂る.
 昼は生の果物か乾燥した杏を水で練ったものを摂る.
 夕食は昼食と同じだが,たまに肉を食することがある.
 フンザの母親は母乳を3年間与える.子供に滋養を与えながら自分が妊娠するのを防ぐ.
 排泄物は堆肥に混ぜて土に還元
 

マッカリソンのクーヌールの給餌試験
 マッカリソンはフンザ人の食生活と健康の関係を裏付けようとして以下の試験を行った.
1189匹の白ネズミにフンザの人々の食事(全粒粉のチャパティに新鮮なバターを薄く塗ったもの,または平たいパン,発芽した豆類,新鮮な生のニンジン,新鮮な生のキャベツ,沸かさない全乳と骨付き肉を少しを一週間に一回,水をふんだんに)与えて27か月齢(人間の55歳に相当)まで飼育.その間すべての月齢でサンプルを殺し,解剖して病状を検査した.結果として全く病気がなく,自然死がないという驚くべき結果を得た.
 次に同じ環境でベンガルとマドラスの貧しい人たちの食事を模して2243匹の白ネズミを飼育した(米,豆類,野菜,香辛料,牛乳わずか).結果としてありとあらゆる病気が出た(本書にはその記載があるが,人間の病気とほぼ重なるのでここでは割愛).早産や流産も見られた.
 最後にイギリスの貧しい階級の食事を与えて同じ実験を行った(白パン,マーガリン,砂糖入りの紅茶,茹でた野菜,缶詰肉,安物のジャム).この食事では成長が思わしくなかったのみならず,ネズミの神経衰弱ともいうべき状態を起こした.試験開始16日後,ネズミの中には弱いものを殺して食べ始めるものも現れた.

フンザの人々の健康についての傍証
 筆者はフンザの人々の健康の理由にその食生活が新鮮な野菜や果物を摂取していること,全体食であること,発酵食品を摂取していることなどを挙げた.その傍証として何カ国かでの興味深い事例を挙げている.
 デンマークでは第一次世界大戦時下食事に劇的な変化が訪れた.大戦にアメリカが参戦したことにより,アメリカからの穀物輸入が減少し,これに依存していたデンマークの食生活と家畜生産の双方が大打撃を受けたのである.食料統制が発令され,フスマの入ったパン,ポリッジ,緑色野菜,ジャガイモ,牛乳などに食生活への変換を余儀なくされた.蒸留酒は禁制となり,ビールもそれまでの半分の量しか認められなかった.その1年半後,デンマークの死亡率は1000人あたり12.5人から10.4人に減少した.デンマークでこれほど死亡率が減少したことはそれまでの例ではなかった.
 アイスランドやグリーンランドでは,動物,鳥,魚などを主食としていた.彼らは肉だけでなく,食べられるところはすべて食べる伝統を持っていた.アイスランドは9世紀にアイルランドとスカンジナビアからの植民者によって定住がはじまり,牛,羊,馬が持ち込まれた.食事は事実上数百年間肉食が続いた.15世紀ごろの記述では,住民の健康状態は良く,くる病もなかった.虫歯は1850年まで全くなかった.
 イヌイットの人々は食事のほとんどを海洋動物か海鳥に依拠していた.凍結時には生食が行われた.彼らの中では一角の厚い皮が好まれた.イヌイットに壊血病やくる病,その他の栄養失調が全くないのは,比較的単純な食生活から見ると特筆すべきである.
 アメリカインディアンの身体成長は健康の見本とでもいうべきものであった.しかし彼らは西洋からの入植者の支配後,農業に興味を示さず,居住地での保護生活によって急速に病気を多発するようになった.政府機関の店から入手したのは,肉(全体ではなく部分),製粉した穀物,シロップ,糖蜜,砂糖,缶詰の豆やトウモロコシやトマトなどである.


健康のための12カ条
レンチは上記の知見から(イギリス人に対し)以下のような留意点を提示している.
1.食べる野菜が健康に育っていることを確認する.皮をむいたり,捨てたりしない.野菜を料理する時,煮汁やゆで水を捨てない.
2.菜園のとりたての野菜と果物を食べること.
3.サラダや保存のよい根菜を食べること.
4.牛乳,バターミルク,スキムミルク,好きであれば酸乳をもっと飲むこと.
5.肉を減らし,穀物,野菜,牛乳,チーズを食べること.動物の内臓や皮も肉同様に食べること.
6.季節の果物をたくさん食べる.
7.季節でない時はドライフルーツ(日干し)を食べる.
8.発芽させたひよこ豆,穀物,豆を特に冬や早春に摂る.
9.全粒粉パンを食べる.
10.バターとチーズを食べる.
11.機会があれば,できたてのワインか,昔流のイングリッシュ・エールを飲む.
12.一度にたくさんの種類の食品や調理品を食べず,単純化する.

2010年3月1日月曜日

決算書はここだけ読め:前川修満

決算書はここだけ読め:前川修満

決算書は作ろうと思ったら細かいルールがあるので大変だが,読むにはポイントだけ抑えれば簡単という実用書である.「そばを食べるのが好きな人は必ずしもそばの作り方を知らなくてもよい」と著者は例えている.また決算書の話の起点を中世の商人におき,順を追って複雑化していく書式を説明してくれているので分かりやすい.就職活動にも地方の財務分析にも資産投資にも決算書を読み解く力は必要である.是非学生にも勧めよう.



お金の5つの要素

 お金の集め方に関するもの
  負債:将来返す約束で集めたお金のこと.
  資本:会社のオーナーが出資してくれたお金のこと.
  収益:会社が稼いで得たお金のこと.
 お金の使い方に関するもの
  資産:集めたお金のうち,経済的価値を失っていないもの.
  費用:集めたお金のうち,経済的価値を失っているもの.

中世のT字フォーム(試算表)
 右側に資金をどうやって集めたか(貸方)を記し,左側にその資金をどうやって使ったのか(借方)を示す.貸方と借方の金額は一致する.

現代でも構造は同じ
   
  借方__________貸方
           |  
           | 負債
      資産  |____
           | 
    _____| 資本
           |____
           |
      費用  | 収益   
   __________|____

決算書を読むポイント
 負債は小さく,資本や収益が大きいほどいい.
 借方は資産が大きく,費用が小さいのがいい.
 収益が費用よりも大きいこと.収益が費用より大きいことを黒字という.

決算書
 この一年でいくら儲けたのか.
 会社の財政状態はどうなっているのか.
 決算の時,試算表は上(負債,資本,資産)と下(収益,費用)で切り離される.
 上は「貸借対照表」,下は「損益計算書」になる.
 損益計算書 (収益と費用の差は「利益」)として記述される
          _____     _____ _____
           |                 |
    _____|            費用  |      
           | 収益    → _____| 収益
      費用  |            利益  |
    _____|_____   _____|_____ 

 
貸借対照表 (損益計算書で得た利益が資本に組み込まれる)
    __________      ___________ 
          | 負債               | 負債
          |____   →         |_____
     資産  |              資産  | 
          | 資本               | 資本(+利益)
          |____             |
   _____|            _____|_____
 
資本金は大きく二つから構成される
 株主が会社に払い込んだ「資本および資本剰余金」
 利益剰余金
貸借対照表の読み方 
 資産,負債,資本の大小を比較する.この際負債が小さく,資本が大きい方がよい.
 損益計算書の読み方
  収益は費用より大きくなくてはいけない
 
実際の貸借対照表の読み方
 細かいところは見ない.  
 「資産合計」,「負債合計」,「純資産合計」(資本合計)をまず見る.
 自己資本比率
  資本の合計を資産の合計で割った値
     資本(純資産)/資本(純資産)+負債 
  自己資本比率は40%以上だったら安定,20-40%だったら一般
 瑣末な項目は面白半分に
  負債は有利子負債の大小を見る.有利子負債は少ないほどいい.
  資本金(純資産合計)は利益剰余金の大小を読む.

収益は3種類ある
 売上高(その会社の主要な業務で稼いだもの)
 営業外収益(その会社の主要な業務以外で稼いだもの,預金の金利など)
 特別収益(突発的な収益,たとえばビルの売却など))

費用は5種類ある
 営業費用:「売上原価」と「販売費及び一般管理費」から構成される.
 営業外費用
 特別損失 
 法人税

利益には5種類ある
 売上総利益:売上高-売上原価
 営業利益:売上総利益-販売及び一般管理費
 経常利益:営業利益+営業外収益-営業外費用
 税引前当期純利益:経常利益+特別収益-特別損失
 当期純利益:税引前当期純利益-法人税

売上総利益率
 売上総利益を売上高で割ったもの(%).粗利益の大きさを示す.

売上高営業利益率
 営業利益を売上高で割ったもの(%).普通の企業は1ケタ.

特にここだけ読めばよいのでは
 経常利益はトリッキーなので売上高,営業利益,当期純利益を見る.

比較をしないと面白くない
 売上高の比較
 営業利益の比較
 事業年度ごとの比較

決算データの入手方法
 EDINET http://info.edinet-fsa.go.jp