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2012年8月6日月曜日

禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本_枡野俊明


禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本.禅僧である枡野俊明の著書.分かりやすく書いてあるので学生などに参考になると思います.以下備忘録

三業を整える.三業とは身業(所作を正しくする),口業(愛情のある親切な言葉を使う),意業のこと(偏見や先入観を排し,ひとつのことに囚われることなく,どんなときも柔軟な心を保つこと.

美しい「所作」は簡素の中にある.作為から離れ,動きの無駄を省いていくと,ひとつひとつの動きが丁寧になっていく.

「姿勢」と「呼吸」と「心」は密接に関係.坐禅は調身,調息,調心で完成.

美しさの真髄に触れなければ,それを自分のものにすることはできない.

丹田はへその下二寸五分にある.そこに意識を集中し,まず良い呼吸は「吐ききる」こと.

「脚下照顧」:自分の足元をしっかり見ること.

「叉手」:親指を中に入れて左手を握り,右手でそれを包むようにする.手は心のありようを示すので,一定の場所において動かさないこと.

「喫茶喫飯」:茶を飲むときは,そのことになりきり,食事のときは,そのことになりきること.見栄や綺麗さにこだわるのではなく,ひたすら今自分がしていることに打ち込む.

他人を見て「いいな」「素敵だな」と思ったことは10日続ける.

「愛語は愛心よりおこる,愛心は慈心を種とせり.愛語よく廻天の力あることを学すべしなり」(正法眼蔵)一度口に出した言葉は決して元に戻らない.

手を合わせる:右手は相手の心,左手は自分の心.相手と心を一つとすること.毎朝自分がここにいることの幸せを先祖様と心を一つにして感謝する.

畳のへりを踏まない

ゴミは正しく捨てる

「汚れたものはその日のうちに」:「片付け」は次の行動のための準備である.

美しい食べ方:箸や器を大切にする.

朝5分でいいので掃除をする:掃除をしている間は拭くこと,磨くこと,掃き清めることに専念して何も考えない.

今日のことは眠る3時間前までに済ます:どんなことに対しても必ず「けじめ」をつける.空間的な境界,時間的な境界.今日もいい一日だったと思い,一日を終える.

眠る前は必ずおだやかにすごす.

同じ時間に眠る.

身だしなみでは着るものと心が調和しているか.

身につけるものは長く着られるものを選ぶ.

身だしなみの基本は清潔感.

「放下着」(ほうげじゃく):なにもかも捨ててしまえ.過去のことを悔まず,将来を憂いない.

あいさつは相手の目を見て言葉をかけたあとに会釈.

「一切衆生,悉有仏性」:この世に存在するあらゆるものは,仏性という仏様の命が宿っている.どんな立場の人にも経緯をもって話す.

「衣食たりて礼節を知る」:生活にある程度の余裕ができて,はじめて礼儀や節度をわきまえることができる.
感謝は感じたときにすぐ伝える.気遣い無用と言われるのはタイミングが悪いから.

もてなし:あらゆる時間,空間のすべてに相手のための心を尽くす.以心伝心.

旬の料理:名残の素材を一割五分,旬の素材を七割,走りの素材を一割五分.「一期一会」の心遣い.

いつも綺麗に掃除が行き届いているところは不思議といつまでも汚れない(ゴミを捨てられない).

月を愛でる.月に合わせて生活する.ついたちは「月立ち」「朔月」の意味.

少し高くても長く使えるものを選ぶ.

再利用とは「見立て」をし,別の命を吹き込むこと.「見立て」ということを意識すると,ものとの関わり方が変わる.

三年間一度も使っていないものは捨てる.

静けさを生み出しているのは余白.

2010年3月11日木曜日

病気にならない生き方:新谷弘美

病気にならない生き方:新谷弘美

最初に読んだのはこの本が出た2005年であった.再び読み返してみてもいい本である.ちなみに2冊目はあまり印象に残らない本だった.
新谷氏は内視鏡医である.30万件を超える診断から,食習慣,生活と胃腸相の関係の経験則を導き出し,独自の健康論を唱えている.経験則なので説得力がある.いろいろな説を引用しているので参考文献があるともっと良かった.1938年に出た「健康の輪」から60年以上を経て健康食の効果が胃腸を直接見ることができるようになった医師によって裏づけされた感がある.健康になりたければ,健康な人のまねをするのがよいことを教えてくれる.免疫革命と合わせて家庭の常備本にすれば日本の医療費は大いに削減されることになるだろう.


茶は体によいか?
お茶を沢山飲む人の胃腸相は悪い.お茶に含まれるタンニン酸にはタンパク質を凝固させる働きがる.粘膜が薄くなる委縮性変化が起きていることが多い.

マクガバン・レポート(1977年)
 膨れ上がった医療費問題から「国民栄養問題アメリカ上院特別委員会」が設立された.委員会のメンバーは世界中から食と健康に関する資料を集め,当時最高レベルの医学・栄養学の専門家とともに「病気が増えている原因」を研究・調査.
 高タンパク,高脂肪の食生活はよくないと結論.理想的な食事として定義されたのは,元禄時代以前の日本の食事.精白しない穀物を主食に,おかずは季節の野菜や海藻類,動物性たんぱく質は魚介類を少々.動物食は成長を早めるのに有効であるが,同時に老化を早める食事でもある.

肉食が腸相を悪くする理由
 食物繊維がなく,脂肪やコレステロールを大量に含んでいること.肉食を続けると,腸壁がどんどん厚く固くなる.これは植物繊維がないために,便の量が極端に少なくなり,その少ない便を排出するために腸が必要以上に蠕動しなければならないから.便を押し出すために腸内の圧力が高くなると,粘膜が押し出され,「憩室」と呼ばれるポケット状のくぼみができる.ここに停滞便がたまっていく.停滞便は毒素を出し,その部分の細胞に遺伝子変化を起こさせ,ポリープを作りだす.腸相の悪い人の多くが,子宮筋腫,高血圧,動脈硬化,心臓病,肥満,乳がん,前立腺ガン,糖尿病などのいわゆる「生活習慣病」を抱えている.

日本人の胃がんの発生率が高い理由
日本人の胃がん発生率はアメリカ人より10倍も高い.脂肪を摂る量が異なることも理由だが,消化酵素の量に大きな違いがあるのではないか.日本人は胃が痛くなるとすぐに胃酸を抑える胃薬を飲むが,これがよくない.胃は異物と接する前線なので強い酸性環境が必要.胃酸が抑えられると消化酵素を活性化させるペプシンや塩酸が不足し,消化不良を起こす.また十分な胃酸がないと,鉄やカルシウム,マグネシウムなどのミネラルの吸収が阻害される.胃の摘出手術を起こした人が貧血症状を呈するのはこれが理由.さらに胃酸を抑えると,腸内細菌のバランスが崩れ,免疫力が低下.胃酸が分泌が不十分だと消化酵素が活性化されず,食べ物は未消化のまま腸へ運ばれる.当然のごとく腐敗,異常発酵が起きる.

薬はすべて毒
薬は基本的にすべて「毒」.効果が早く表れる薬ほど毒性も高い.

健康のカギは酵素
 人間の体内で働いている酵素は5千種類以上あるといわれるが,酵素は体内で作られるものと外部から食物として取り込むものの2種類がある.体内で作られる酵素も,腸内細菌が作りだしていると言われるものが約3千種類ある.
 良い胃腸相をしている人たちに共通していたのは,酵素を含む新鮮な食物を多くとっていたこと.一方悪い胃腸相をしている人たちに共通していたのは,酵素を消費する生活習慣(たばこ,酒,大食,添加物の多い食物の摂取,ストレスの多い生活,医薬品の多様など)
 アメリカの酵素研究の第一人者であるエドワード・ハウエル博士は,生物がその一生の間に生産できる酵素の総量は決まっているという説を提唱している.現在酵素を作り出すことができるのは生命体だけである.発酵食品のように酵素を多く含む食物を人工的につくることはできるが,酵素そのものを人工的に合成し,作りだすことはできない.
新谷氏は特定の場所で特定の酵素が大量に消費されると,体の他の部分で必要な酵素が欠乏するという事実を確認した.どこかで大量の酵素を消費すると,体の恒常性を維持し,細胞の修復や神経系,ホルモン系,免疫系を正常に保つ酵素がその分不足するとう仮説.

抗がん剤の恐ろしさ
 抗がん剤はもっとも体にとって毒.抗がん剤は毒性の強い活性酸素を沢山作りだすことによってガン細胞を殺している.活性酸素が大量発生すると,人間の体は恒常性を維持するために,活性酸素を解毒するための酵素を生成する.

牛乳を飲むと骨が弱くなる?
 牛乳に含まれるカゼインは胃に入るとすぐに固まってしまい,消化が非常に悪い.ホモゲナイズ(脂肪の均質化)のために攪拌をすることにより乳脂肪分は過酸化脂質に変化する.これは活性酸素と同じように体に悪い.高温殺菌をすると牛乳の酵素は48-115度の間で分解する.市販の牛乳を母乳の代わりに子牛に与えると4ー5日で死んでしまう.
 牛乳を飲むと血中カルシウム濃度が急激に上昇する.体は血中のカルシウム濃度を通常に戻そうと,血中のカルシウムを腎臓から排出する.牛乳の摂取でカルシウムが過剰に排泄されてしまう皮肉.4大酪農国であるアメリカ,デンマーク,スウェーデン,フィンランドの各国で骨粗鬆症が多い.小魚などを通してカルシウム摂取をすると血中濃度の急上昇は起きない.

ヨーグルトを常食している人の腸相も決してよくない.
乳糖を消化する酵素「ラクターゼ」は年齢を経るとともに減少.乳糖の未消化が軽い下痢を起こさせ,便通が良くなったとの錯覚を生むのではないか?

You are what you eat

活性酸素を少なくする生活
活性酸素の中和のための酵素は「SuperOxide Dismutase」.しかしSODは40歳を過ぎた頃から生成量が急激に減少する.

酸化の進みやすい油
 食用油は昔圧搾法で抽出されていた.これは熱を加えない方法.だが熱を加えないだけに変質もしやすい.

酸化が進まないがもっと体に悪い油.
 現在では「溶剤抽出法」が用いられている.原料にヘキサンという溶剤を混合して加熱し,さらに溶剤のみを蒸発させるため,高温,高圧をかける.この方法で抽出された油は「トランス脂肪酸」という体に非常に悪い成分になる.
 トランス脂肪酸は自然界には存在しない油で,悪玉コレステロールを増やし,善玉コレステロールを減らすほか,ガン,高血圧,心臓疾患などの原因となる.
 マーガリンは常温で液体であるはず不飽和脂肪酸に水素を添加し,飽和脂肪酸に人工的に変えてある.マーガリンの原料がそもそもトランス脂肪酸を多量に含んでいるので体には良くない.マーガリンと同様に「ショートニング」もトランス脂肪酸を沢山含む.

必須脂肪酸の上手な摂取法
 不飽和脂肪酸の中に人間の体で合成できないものがある.リノール酸,リノレン酸,アラキドン酸などである.これらの不飽和脂肪酸はとても酸化しやすい.圧搾採取したオリーブオイルでも酸化は避けられない.
 これらの不飽和脂肪酸は魚に含まれるものが最も安定している.特にイワシやサバなどの青い魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタン酸)といった良質な不飽和脂肪酸が多く含まれている.
 油はどのようなものであっても空気に触れればすぐに酸化を始める.だからできるだけ調理に油は使わない方がよい.
 人間に必要な油は人工的に摂取しなくても,脂肪分を含有した食品を摂ることで自然に摂取できる.穀物やナッツ,豆類,植物の種など油の原料となるものをそのまま食べること.

人間より体温の高い動物の肉は血を汚す
 動物性タンパク質は大量に摂りすぎると,胃腸で完全に分解がしきれず,腸内で腐敗して大量の毒素を生成する.その毒素とは,硫化水素,インドール,メタンガス,アンモニア,ヒスタミン,ニトロソアミンなど.これに加えてフリーラジカルも生成される.
 タンパク質は1日60gしか必要ない.現在の日本男子の1日のタンパク質摂取量は84gでアメリカ人に匹敵する.
 無駄なたんぱく質は消化酵素によってアミノ酸に分解され,アミノ酸は肝臓でされに分解されて血液に流れ込む.すると血液が酸性に傾くので,それを中和するために骨や歯から大量のカルシウムが引き出される.
 魚を過剰摂取しても腸に憩室ができるまで悪化はしない.その理由として脂肪の性質が異なることが考えられる.人間より体温の高い動物の油は体内に摂りこまれると凝固する.一方で体温の低い動物の脂肪は液化する.その違いかもしれない.

赤身の魚は酸化しやすい
 赤身の魚は鉄分を多く含むため,白身の魚より酸化しやすい.赤身の魚はミオグロビンを多く含む.ミオグロビンは酸素を蓄えることのできる球状タンパク質.無酸素運動をするために大事なものだが,酸素を蓄えることができるだけに酸化しやすい.

植物性85%動物性15%が理想の食事
 植物食でもタンパク質は十分摂れる.人間の腸ではタンパク質が消化酵素によりアミノ酸に分解され,腸壁で吸収されてからタンパク質が再合成される.人のタンパク質を構成するアミノ酸は約20種類あり,その中には人間の体内で合成できないものが8種類ある.リジン,メチオニン,トリプトファン,バリン,スレオニン,ロイシン,イソロイシン,フェニルアラニンでこれらを必須アミノ酸という.これら必須アミノ酸をすべて含んでいるのが動物性タンパク質.しかし植物性タンパク質にも多くの必須アミノ酸は含まれている.穀類,豆類,野菜類,キノコ類,果物,海藻にもアミノ酸は多く含まれている.

白米
 玄米は発芽する能力を持つ.そのための胚芽を取り除いた白米は多くの重要な栄養素を失っている.
 種の中には勝手に発芽しないよう抑制する酵素「トリプシン・インヒビター」が含まれているものがある.穀物や豆や芋を生で食べると害になるのは,この物質を中和するのに大量の酵素が必要となるから.トリプシン・インヒビターは熱を加えると分解する.
 
人間の歯はなぜ32本なのか
 人間の場合,肉を食べるための犬歯が4なのに対し,植物を食べる歯は門歯の8と臼歯の20を足した28になる.これは植物性85%動物性15%が理想の食事であることを意味していると考えられる.85%の植物食のうち50%は穀物,野菜や果物を35-40%とするとよい.また50%を占める穀物は生成していないものを選ぶ.

良く噛むことと小食は体によい
 人間の体は噛めば噛むほど唾液の分泌が活発になる.小食を心がけていると食べたものが綺麗に消化,吸収されるので,腸内での腐敗が防げる.

肉食動物はなぜ草食動物を食べるのか
 地球上にはさまざまな食性をもった動物がいるが,それらに共通するのは酵素を多く含んだ状態の食物を好むこと.肉食動物が肉しか食べないのは植物を分解する酵素を自らもっていないから.草食動物を狩ると肉食動物はまず内臓を先に食べる.これにより草食動物が胃腸で消化した植物と消化しつつある植物を食べている.

食事の1時間前に水を飲む
 食事の直前や最中に水を飲むと胃酸が薄まり,消化によくない.就寝時には胃を空にしたほうがよいのであまり好ましくない.よって以下のような飲み方がよい.
・起床時 500-750cc
・昼食の1時間前 500cc
・夕食の1時間前 500cc
 水は冷えたものを飲むと内臓を冷やすので酵素にとってもよくない.室温のもの,もしくは体温にちかいもの.

水はよきパートナー
 水は血管の中だけでなく,リンパ管の中でも活躍し,私たちの健康を守っている.人間の体のリンパ管システムは,血管を川に例えるなら,下水管のようなもの.皮下組織にある過剰水分やたんぱく質,老廃物などを浄化,濾過,濃縮したあと,血流に運び込む役割を果たす.リンパ管の中にはガンマグロブリンのような抗体やりぞチームなどの抗菌作用を持つ酵素も含まれえいる.これらが健全に機能するためによい水が絶対に必要.
 酸化還元電位では,酸化力が低く還元力の強い水がよい.酸化力の高い水は微生物などを死滅させるが,同時に細胞も傷つける.水道水には酸化力の高いものがある.
 水に含まれるミネラルの中で特に大切なのは,カルシウムとマグネシウム.そのバランスが大切である.カルシウムが過剰だと細胞内に蓄積することでカルシウムは高血圧や動脈硬化の原因となるが,マグネシウムが適度に含まれていると,これを防ぐことができる.

人間が生きていけるのは微生物のおかげ
 人間の腸内には300種類100兆個の腸内細菌が住みついている.かれらは私たちの生命力の源である酵素を作ってくれている.
 腸内にはいわゆる善玉菌と悪玉菌がいる.善玉菌はひとことで言えば抗酸化酵素を持っている.彼らは腸内でフリーラジカルが発生すると,自らが死んで体内の抗酸化酵素を出し,フリーラジカルを中和する.絨毛の間にいる乳酸菌は免疫システムが病原と戦う時に大量に発生させるフリーラジカルの除去に活躍する.
 悪玉菌は未消化物に対して異常発酵を促すものであるが,これは有害ガスの発生により腸を刺激して排泄を促していると考えることもでき,一概に悪とは決めつけられない.
 抗酸化作用をもたらす善玉菌を増やすことが酵素の生産につながるのであれば,酵素が沢山含まれる食物を摂ることが,善玉菌の繁殖を助けることとなる.

2010年3月9日火曜日

健康の輪:G.T. レンチ

健康の輪 (1938年)
病気知らずのフンザの食と農
G.T.レンチ

 「ハワードの有機農業」と時代を同じくして出版された書物である.両者に共通するのは,植民地支配において,アジアの農業や食の合理性を目のあたりにし,その知見を逆輸入しようとする姿勢である.病気や健康の解釈については古い時代なりの解釈があり,文章も描写と教条が混ぜこぜで書かれているため,分かりにくい部分があるが,現在唱えられている健康論の原点がすでにここにあったことにはびっくりする.
 小麦粉がなぜ全粒から精白になったのかは知らなかったのだが,それは,世界貿易において長期輸送や保存の際の酸化を防ぐためであることが興味深かった.小麦胚芽の油分は酸化しやすいためである.フスマは小麦を覆う皮であるが,これも精白では取り除かれる.アメリカからの穀物輸入が西欧に大きな影響を及ぼしている時代の書物であるがゆえ,その辺りの記述がしっかりしていたのが面白かった.以下要約


フンザ(Hunza,パキスタン)は,コーカサス(グルジア),ビルカバンバ(エクアドル)とともに世界三大長寿地域と評される秘境である.フンザが位置する渓谷はインドからミンタカ峠を超えて新疆ウイグルに至る街道の途上にあり,アフガニスタンの東端からわずか16キロの距離にある.高度は3000-4000mである.

フンザの人々の健康さと屈強さには数々の定評があった.怖いもの知らずで気立てがよく,明るいうえ,素晴らしい敏捷性と忍耐力を有している,徒歩で448キロの山道を7日で歩く,職業は主に農業だが職人としてもすぐれている,登山のポーターとして極めて優秀,踊り手としての彼らも北西辺境のカタックのダンスが比較にならないほど洗練されている,などなどである.

インド軍の連隊付き軍医であったロバート・マッカリソン卿は(1918年に研究に戻り,1921年に欠乏症研究を出版)フンザの人々について以下のように語っている.「これらの人々は,身体の完全さでは他のどのインド人よりも優れていて,長生きであり,老いも若きも生命力にあふれ,非常に耐久力があり,みな驚くほど病気知らずである」


フンザの食事と暮らしには以下のような特徴がある.
 厳冬期以外はほとんど屋外で野良仕事に男女が従事する.
 イスラム教だが女性は家に閉じ込められていないし,ワインを自粛してもいない.
 穀物は,小麦,大麦,燕麦,小粒の穀類.全粒のチャパティにして食べる.
 葉物野菜,根菜,芋類,ひよこ豆ほかマメ科植物,新鮮な牛乳とバターミルク,ラッシ,溶かし たバターやチーズ,主に杏と桑を主体とした果物,稀に肉,ブドウで作ったワインなど.
 茶,米,砂糖,卵を食べない.
 小麦は自作の他,交換で入手.豆を一緒に粉に挽いたりする.
 フンザでは牛乳から脂肪を分離し,沸騰させてギーという溶かしバターを作る.
 残ったラッシ(バターミルク)は発酵させ,酸っぱくして保存.
 野菜は特に燃料が乏しいという理由で生で食べられる場合は生で食べている.
 若いトウモロコシ,若葉,ニンジン,カブが好物.
 豆類は発芽させて食べたり,双葉を食べたりする.
 野菜を煮る時にも,水はほとんどいれず,蒸し煮に近い.
 野菜を煮た汁は,野菜と一緒に飲むか,後で飲む.
 野菜の皮も食べられるものは一緒に食べる.
 肉は10日に一度ぐらいしか食べない.餌の少ない冬に家畜の屠殺が多くなる. 
 果物を食べる量が多い.野菜より多いので主食ともいえる.夏は新鮮なもの,
 冬は乾燥したものを摂取する.
 果物は中の種も割って仁も食べる.
 朝は野良に行く前何も食べない.
 2-3時間働いた後にパン,豆,野菜を牛乳と一緒に摂る.
 昼は生の果物か乾燥した杏を水で練ったものを摂る.
 夕食は昼食と同じだが,たまに肉を食することがある.
 フンザの母親は母乳を3年間与える.子供に滋養を与えながら自分が妊娠するのを防ぐ.
 排泄物は堆肥に混ぜて土に還元
 

マッカリソンのクーヌールの給餌試験
 マッカリソンはフンザ人の食生活と健康の関係を裏付けようとして以下の試験を行った.
1189匹の白ネズミにフンザの人々の食事(全粒粉のチャパティに新鮮なバターを薄く塗ったもの,または平たいパン,発芽した豆類,新鮮な生のニンジン,新鮮な生のキャベツ,沸かさない全乳と骨付き肉を少しを一週間に一回,水をふんだんに)与えて27か月齢(人間の55歳に相当)まで飼育.その間すべての月齢でサンプルを殺し,解剖して病状を検査した.結果として全く病気がなく,自然死がないという驚くべき結果を得た.
 次に同じ環境でベンガルとマドラスの貧しい人たちの食事を模して2243匹の白ネズミを飼育した(米,豆類,野菜,香辛料,牛乳わずか).結果としてありとあらゆる病気が出た(本書にはその記載があるが,人間の病気とほぼ重なるのでここでは割愛).早産や流産も見られた.
 最後にイギリスの貧しい階級の食事を与えて同じ実験を行った(白パン,マーガリン,砂糖入りの紅茶,茹でた野菜,缶詰肉,安物のジャム).この食事では成長が思わしくなかったのみならず,ネズミの神経衰弱ともいうべき状態を起こした.試験開始16日後,ネズミの中には弱いものを殺して食べ始めるものも現れた.

フンザの人々の健康についての傍証
 筆者はフンザの人々の健康の理由にその食生活が新鮮な野菜や果物を摂取していること,全体食であること,発酵食品を摂取していることなどを挙げた.その傍証として何カ国かでの興味深い事例を挙げている.
 デンマークでは第一次世界大戦時下食事に劇的な変化が訪れた.大戦にアメリカが参戦したことにより,アメリカからの穀物輸入が減少し,これに依存していたデンマークの食生活と家畜生産の双方が大打撃を受けたのである.食料統制が発令され,フスマの入ったパン,ポリッジ,緑色野菜,ジャガイモ,牛乳などに食生活への変換を余儀なくされた.蒸留酒は禁制となり,ビールもそれまでの半分の量しか認められなかった.その1年半後,デンマークの死亡率は1000人あたり12.5人から10.4人に減少した.デンマークでこれほど死亡率が減少したことはそれまでの例ではなかった.
 アイスランドやグリーンランドでは,動物,鳥,魚などを主食としていた.彼らは肉だけでなく,食べられるところはすべて食べる伝統を持っていた.アイスランドは9世紀にアイルランドとスカンジナビアからの植民者によって定住がはじまり,牛,羊,馬が持ち込まれた.食事は事実上数百年間肉食が続いた.15世紀ごろの記述では,住民の健康状態は良く,くる病もなかった.虫歯は1850年まで全くなかった.
 イヌイットの人々は食事のほとんどを海洋動物か海鳥に依拠していた.凍結時には生食が行われた.彼らの中では一角の厚い皮が好まれた.イヌイットに壊血病やくる病,その他の栄養失調が全くないのは,比較的単純な食生活から見ると特筆すべきである.
 アメリカインディアンの身体成長は健康の見本とでもいうべきものであった.しかし彼らは西洋からの入植者の支配後,農業に興味を示さず,居住地での保護生活によって急速に病気を多発するようになった.政府機関の店から入手したのは,肉(全体ではなく部分),製粉した穀物,シロップ,糖蜜,砂糖,缶詰の豆やトウモロコシやトマトなどである.


健康のための12カ条
レンチは上記の知見から(イギリス人に対し)以下のような留意点を提示している.
1.食べる野菜が健康に育っていることを確認する.皮をむいたり,捨てたりしない.野菜を料理する時,煮汁やゆで水を捨てない.
2.菜園のとりたての野菜と果物を食べること.
3.サラダや保存のよい根菜を食べること.
4.牛乳,バターミルク,スキムミルク,好きであれば酸乳をもっと飲むこと.
5.肉を減らし,穀物,野菜,牛乳,チーズを食べること.動物の内臓や皮も肉同様に食べること.
6.季節の果物をたくさん食べる.
7.季節でない時はドライフルーツ(日干し)を食べる.
8.発芽させたひよこ豆,穀物,豆を特に冬や早春に摂る.
9.全粒粉パンを食べる.
10.バターとチーズを食べる.
11.機会があれば,できたてのワインか,昔流のイングリッシュ・エールを飲む.
12.一度にたくさんの種類の食品や調理品を食べず,単純化する.

2010年1月30日土曜日

免疫革命:安保 徹

世界的な免疫学者である安保さんの著書である.たった1600円で人の一生を左右するような重要な情報が手に入る.本はつくづく安いと思わせる良書である.医療費の削減のために一家に一冊推薦したい.


この本は免疫学の最新の知見から病気の本当の原因はストレスであることを論証している.昔から「病は気から」,「心身を鍛えると病気が遠ざかる」などと言われてきたが,そんな経験則には科学的根拠がないと長年言われてきた.安保氏は人間の自律神経(交感神経と副交感神経)と白血球の働きの関係を明らかにすることで,上記の経験則に科学的根拠を与えたのである.本のほとんどは病気の原因を自律神経失調から読み解き,治癒の方法を示すことに費やされているが,自分は第5章の「病気と体調の謎とける免疫学」に特に興味を覚えた.

免疫学の始まりは19世紀後半ばに,感染症が微生物によって引き起こされること,一度感染して生き残った動物は,抵抗性を獲得することがあることをパスツールが発見したことにある.その後コッホ(結核菌の発見者)が,病気を再発しながらも軽症で治った動物や人の血清中に,その病気を予防する抗体ができていることを発見したのが大きな進歩となった.しかし,1960年代に胸腺や骨髄で作られるT細胞やB細胞などの免疫細胞が発見されるまで,リンパ球が関わる免疫の仕組みは活発に研究されなかった.免疫学は新しい学問であるだけに未だ定説を覆すような新たな発見が出続けている.

人間の治癒のために免疫学を追求するためには,人間の体の働きをシステム視することが重要と安保氏は説く.近年の医学はあまりにも専門化して分析に突き進んでいるため,細胞の働きについて新しい知見を得られるものの,病気がなぜ起こるか,なぜ治癒するのかという複雑なメカニズムには目がいかない.安保氏は人間の体の働きを読み解くためには  
1) 自律神経のメカニズム
2) 白血球のシステム
3) 代謝エネルギーのシステム
の理解が必要であると主張する.1)の自律神経とは,交感神経と副交感神経が織りなすシステムのことで,交感神経は身体の興奮を,副交感神経は身体のリラックスを司る.2)白血球のシステムとは,マクロファージという原初的な機能を持った細胞と,そこから進化して生まれた顆粒球(細菌への攻撃・分解を司る)リンパ球(免疫を司る)の働きの役割分担のことである.これら白血球の働きは自律神経に支配されているため,自律神経のバランスの乱れが,感染症だけでなくすべての病気が起こったり治ったりする過程に関わってくる.3)代謝とはエネルギーを消費・蓄積するシステム.過剰消費や過剰蓄積は身体の活動を破たんさせる.

人間の生活は日々細菌やウィルスなどの外来の病原や,ガン細胞など人間の代謝に由来する内部の異常細胞の発生に脅かされている.本来人間の一日の生活リズムの中で交感型神経と副交感型神経がゆるやかに交代する.交感型とは人間の昼の行動,例えば狩猟採取,労働などと関係する.身体は興奮状態になり,心拍が上がり,怪我により細菌感染が起きやすい状態である.副交感型は食事,睡眠,休息など,リラックスの状態と深く関わる.傷ついた身体を治癒するのにもリラックスが必要である.食事の消化過程においては,腸から細菌より小さな病原を取り込む危険性が高い.

白血球の原初形はマクロファージである.アメーバのような単細胞で異物を飲み込む.マクロファージは全身にくまなく分布している.白血球だけでなく,赤血球も血小板も,血管内細胞も実はマクロファージから進化している.

顆粒球はマクロファージの貪食性をさらに強めた細胞である.細菌を自らの膜で取り込み,活性酸素と酵素で分解してしまう.細菌は普通細胞の100分の1ぐらいの大きさである.顆粒球の増加は交感神経の状態下で起きる.先に述べたように,人間が活発に活動するときほど,ケガなどにより細菌が体内に侵入する可能性が高いからである.顆粒球が細菌を攻撃するときに発生させる活性酸素は,細菌だけでなく,周囲の細胞も傷めることになる.化膿という現象は顆粒球が細菌を処理した結果生じる.

リンパ球は細菌よりさらに小さな危険異物,たとえばウィルス,小さな微生物,細菌の出す毒素,消化酵素で分解された異種タンパク,空気中の危険微粒子,花粉,ダニの死骸などの異物に対応する.リンパ球は異物を貪食するのではなく,接着分子(インテグリン,セレクチン,免疫グロブリンなど)で凝集させる.さらにB細胞は抗体を出す.抗体とはリンパ球が抗原に対応するために膜にある接着分子を自分から切り離して外に放出したもので,タンパク分子である.こうしてB細胞自身がたどりつけないところにも,血管や体液中に抗体を巡らすことで異物に対応ができる.

リンパ球は普段は休止状態である.抗原が身体に入ってきたことを示すのはマクロファージで,サイトカイシンという高分子の伝達物質を介して情報を伝えることでリンパ球が活動を始める.インターフェロン,インターロイキン,TNFなど50種類以上の物質が今までに見つかっている.サイトカイシンはマクロファージから顆粒球,リンパ球同士の情報伝達にも使われる.マクロファージが異物の性質も見分け,細菌なら顆粒球が,ウィルスならリンパ球が活性化する.新しい抗原に対してはマクロファージが自分の持っているMHCと呼ばれるタンパク分子の溝に抗原を入れて抗原を提示し,これをヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球が認識し,B細胞に伝達する.B細胞はクローンを増やし抗原と戦う.リンパ球と抗原の戦いが終わると組織の残骸が残るが,これを片付けるのはマクロファージの仕事である.
マクロファージは免疫の基本である.通常白血球に占めるマクロファージ,顆粒球,リンパ球の割合はそれぞれ,5%,60%,35%である.顆粒球の割合が多いのは,それだけ必要とされる局面が多いからである.顆粒球は細菌との戦いで化膿性の炎症を起こして治癒するが,その過程は免疫性ではない.免疫はリンパ球の働きのみで発現する.リンパ球の炎症はカタル性といい,サラサラした漿液がたくさん出る.風邪のひきはじめに出る鼻水はこの成分である.また化膿せず赤く腫れ上がるフレグモネ性炎症も引き起こす.アレルギー炎症もリンパ球の働きによる.

人間は常に理想的なリズムで生活をしているわけではなく,無理をすることが多くある.興奮状態が続き,交感神経が過剰になると顆粒球が異常増殖し,体内の常在菌を攻撃して化膿性の炎症が発現しやすくなる.またリンパ球の活動が抑制されることで常在菌が活性化して粘膜などを侵す反応も起きる.顆粒球は新陳代謝の役割も担っているが,過剰に増えて新陳代謝が活発になると,古くなっていない細胞までを攻撃してしまう.顆粒球の寿命は二日ほどで,死ぬときにその核が壊れると細胞の中に入っていた活性酸素が放出されてまわりの組織を酸化する.胃潰瘍の原因はピロリ菌とする説が一時一世を風靡したが,ピロリ菌は胃にいる常在菌にすぎず,潰瘍が起きるメカニズムは交感型神経過剰による顆粒球の異常増殖であることを安保氏は証明している.

一方副交感型過剰によるリンパ球の増殖も過敏反応を引き起こす.リンパ球には様々な種類がある.マクロファージからの進化でもっとも近い性質を持っているのはNK(ナチュラル・キラー)細胞である.リンパ球の中で一番大きい.NK細胞の次に生れたのが胸腺外分化T細胞である.T細胞とは細胞性免疫を司る細胞のことで,抗体を放出するのではなく,自らが異物(抗原)のところまでいき,細胞ごと抗原と反応する.T細胞は胸腺(Thymus)で作られることにその名の由来があるが,安保氏は1990年に胸腺以外(肝臓や腸管上皮)でもT細胞が作られることを発見した.そしてNK細胞とこの胸腺外分化T細胞は外来抗原ではなく,身体の中の異常を監視している細胞だということを発見した.NK細胞やT細胞は体内の細胞に入り込んだ異物をレセプターで認識し,自分の細胞内にためこんである分解酵素を異物が入り込んだ細胞に振りかけて殺します.B細胞は鶏の肛門近くにあるファブリキウス嚢(Bursa of Fabricius)というところで発見されたのでBが冠されている.人間を含む哺乳動物にファブリキウス嚢はないので,多分骨髄でつくられていると考えられる.B細胞は自らが細胞のところにいくのではなく,レセプターのついている抗体を体液の中に放出する.液性免疫と呼ばれている.

T細胞とおなじようにB細胞も進化の過程でB-1a,B-1b,B-2と三段階で進化してきたと考えられる.進化の浅いB-1aは自己の内部異常に対する抗体,自己抗体を放出する.こうして見ていくと免疫は本来外来の異物ではなく,内部に生じた異常細胞を排除する役割から進化したと考えられる.

生物が水棲から陸棲になると,T細胞やB細胞といった進化したリンパ球を育てる胸腺や脊髄という器官ができた.生物が出会う抗原が格段に増えたからである.陸棲になったことで取り込める酸素の量が増大し,代謝も格段に活発になった.水に溶けている酸素は1%なのに対して空気中の20%が酸素である.動脈中の酸素濃度は約5倍になった.胸腺はもともとエラから進化している.エラが魚の時代には大量の抗原がぶつかってくる部位だったのでリンパ球がそこにたくさん存在した.水棲動物だったころ,リンパ球の95%は自己異常を発見する自己応答型のリンパ球だった.陸棲になったことでこれらの比率を格段に下げて外来抗原に対応するように生物は進化した.

がん,自己免疫疾患,加齢による障害,妊娠,細胞内寄生する原虫による感染症,臓器移植後のGHV病などはすべて古い免疫系と関わっている.これらの症状には自己免疫を産出する自己応答型のT細胞が対応している.古い免疫系は消化管のまわり,消化管から進化した肝臓,あとは外分泌線のまわりにある.そして子宮のような性器官のまわりにもある.なぜ消化のまわりに免疫系が発達したかというと,消化酵素が食べ物をアミノ酸のレベルまで分解していないからだと安保氏は考える.アミノ酸が数個かたまったペプチドは抗原となる可能性がある.

MHC(Major Histocompatibility Complex Antigen)は主要組織適合抗原と呼ばれる.これは抗原を提示するタンパク質だが,個人間でアミノ酸の配列に違いがある.個人間の遺伝子の違いをみると99.9%は同一だが,個人間でたった一つだけ異なるタンパク質をつくる遺伝子がある.これがMHCであり,臓器移植などで拒絶反応が起きる原因となっている.MHCはもっとも代謝の早いタンパク質で,私たちの細胞のすべてが持っているタンパク質である.拒絶反応を抑制することで,MHCの分布の少ない肝臓や腎臓は移植が可能だが,MHCの分布の多い皮膚やリンパ球の移入は難しい.

出生後胸腺は成長とともに20歳ぐらいまで重さを増してゆき,その後は加齢とともに退縮していく.歳をとると,リンパ節や脾臓も委縮を始める.すると若い時には細々と活動していた腸や肝臓,外分泌線のリンパ球が目を覚ましたように活発化する.加齢現象と関係なく胸腺が委縮するときがある.それは強いストレスがかかった時である.こうなるとまた古い免疫系が活発化する.歳をとると自己異常細胞が増えてくる(タンパク質の酸化,脂質の酸化)ので,これの排除のためには古い免疫系がしっかり仕事をする必要がある.
妊娠時も強い交感神経緊張状態になって胸腺が委縮する.すると古い免疫系が活発化するのだが,これが強すぎると妊娠中毒症になる.つねに細胞が増殖している場所にはがん細胞ができやすい.胎児はほぼガン細胞と同じ速さで成長していく.時たま胎児自身の細胞が母体に迷入して増殖する危険がある.これを防御しているのも古い免疫系である.

がんは無理(免疫抑制)がたたって起きる病気である.がんは多くの場合極度の交感神経緊張状態から,顆粒菌が自らの身体を痛め,その再生過程で活性酸素などにより遺伝子異常を起こして生まれてくるガン細胞の増殖に免疫が対応できないために起きる.現在ガンに対して行われている三大療法(手術,放射線,抗がん剤)ではがんは治らない.なぜならいずれの療法も免疫抑制をひきおこすから.交感型だった生活スタイルを副交感型に変え,免疫力を上げると,がんは自然治癒していく.普通食が食べられ,自宅で日常生活を送ることができる状態であれば治癒率は進行ガンで6-7割.悪性ガンでも免疫療法を行えば医者の宣告よりもずっと長生き.

熱が出たり,痛みがでたり,下痢をしたり,咳が出たりする症状は「つらい症状」だが,これこそが治癒のために必要なプロセスである.熱が出る,腫れあがる,発疹ができるということは,血流が増えていわば身体が燃えあがっている状態である.患部に血流を送って治癒を起こそうとしている身体の自然な反応なので逆に熱を奪ってしまうと治癒が起こらない.

対処療法とは,上記の「つらい症状」を緩和するものである.不快な症状が表面的,一時的にとれるため,患者は治ったと錯覚する.しかし実際の対処療法は治癒を遅らせる働きを持つため,慢性疾患に対する対処療法は危険である.治癒の反応を抑え込むことになるからである.腰痛などに用いられる消炎鎮痛剤も血行を抑制し患部を冷やすので「痛み」はとれる一方で治癒が遅れることになる.

人間はあまりゆっくりのんびりして過剰に副交感神経状態になってもやはり自律性を崩す.リン球が異常増殖し,アレルギー反応などを引き起こす.規律のない生活,過食などは過剰副交感型を引き起こす.二酸化炭素濃度が高いことも副交感過剰を引き起こす.温かい部屋で換気が悪いと,それだけで副交感型になるが,ほこりが貯まったり,湿気が籠ってカビが発生するとさらにアレルギー反応が助長される.