2009年12月5日土曜日

動的平衡:福岡伸一


福岡さんの著書は初めて読んだ.素晴らしいサイエンス・インタープリテーションである.特に気に入ったのは偉大な科学的発見の背後にある数多くの失敗に対しての敬意だ.ご自身の経験も含め,失敗から学ぶことの多さをしっかり説明している.

以下備忘録

ルドルフ・シェーンハイマー:食物に含まれる分子が瞬く間に身体の構成分子になり,又次の瞬間には体外に出て行くことを,安定度同位体マーカーをつけたアミノ酸を研究で明らかにした.細胞を構成する物質は流転する.

記憶は神経の回路である:神経と神経の間にはペプチドが情報伝達に介在している.

体内時計:細胞分裂のタイミングや分派プログラムなどの時間経過はすべてタンパク質の分解と合成のサイクルによってコントロールされている.加齢ととともに新陳代謝は遅くなっていく.物理的時間の進行は一定なので,加齢とともに時間が過ぎるのは早くなる.
錯覚を生むメカニズム:幼児期,神経回路は四方八方に触手をのばして手当たり次第結合を作り出している.その後この回路をは刈り取られていく.よく使われる回路は太く強化され,使われない回路は消滅していく.脳の合目的性.

消化の意味するところ:タンパク質をアミノ酸に分解し,情報を消し去ること.他者の情報と自分の情報の衝突や干渉を避けること.

人間は考える管である:消化管には消化神経回路が発達しており,脳におけるのと同じ神経ペプチドが機能している.

生命活動とはアミノ酸の並べ替え:タンパク質の合成と分解との動的平衡が「生きていること」

ニューロン間の電気伝達の制御に化学物質が関与:グルタミン酸はその一種.

膵臓:トリプシン,アミラーゼ,リパーゼという消化酵素を分泌.食品からの必要摂取タンパク質と同じ60-70gが分泌され,最終的には自己消化する.

自然界はシグモイド・カーブ

太るメカニズム:脂肪細胞は毛細血管から余剰ブドウ糖を受け取り,脂肪に変換して貯蔵する.細胞膜がその量の制御を行なっている.その制御は膵臓での血中ブドウ糖濃度に応じたインシュリン分泌である.脂肪細胞の表面にはインシュリン・レセプターが存在する.

貯蓄時には一過的に血糖値が低下し,身体は同化モード,つまり副交感神経優位の眠い状態にはいる.外敵に襲われると殲滅される.どんなときにも血糖値を高く保ち,常に臨戦モードに身体を維持した集団は遺伝的糖尿病集団である.

食品の価格差には合理的な理由がある.消費期限が近い,保存のために添加剤が使われていて,長期間流通できる,などなど.

ハムやソーセージに入っているソルビン酸には細菌の増殖を防ぐ働きがあり,私たちの腸内細菌も制圧を受けてる.また増殖して戻ることはするが,身体に負荷がかかっている.負荷を与えない状態に比べれば長持ちしない.

食物の分子はそのまま私たちの身体の分子になる.それゆえに,もし食物の中に生物の構成要素以外のものが含まれていたなら,私たちの身体の動的平衡に負荷をかけることになる.

モンサント:除草剤ラウンドアップに耐性を持つ大豆の開発.

ES細胞:まだ効率よく細胞を作れるわけではない.

細胞の分化のきっかけ:各細胞は細胞表面の特殊なタンパク質を介した相互の情報交換によって分化が始まる.

欠落しているのは生命にとっての時間という概念である.タイミングとパーツは時間に沿って組織化され,それぞれの時点で何がどのように起きるかはたった一回の不可逆なものである.

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